1972年12月31日に放送された第23回NHK紅白歌合戦は、昭和後期に差しかかった日本社会と音楽シーンの変化が、より明確に表れ始めた回です。高度経済成長が続く一方で、人々の価値観やライフスタイルはさらに多様化し、音楽に求められる役割も少しずつ変わってきていました。紅白歌合戦は依然として年末最大の娯楽番組であり、大晦日の夜に家族そろってテレビの前に集まるという風景は、全国の家庭でごく自然なものとなっていました。この第23回は、伝統的な歌謡曲と新しい音楽の流れが同じ舞台で交差する、時代の節目を感じさせる大会です。
目次
第23回紅白歌合戦の概要
第23回NHK紅白歌合戦は1972年12月31日の大晦日に開催され、テレビとラジオの同時放送によって全国に中継されました。番組構成はこれまでと同様に、紅組・白組に分かれた出場歌手が順番に登場し、その年を象徴する楽曲を披露していく形式が踏襲されています。司会進行や演出は非常に安定しており、長時間の生放送でありながらも、年末の雰囲気を楽しみながら自然に視聴できる内容となっていました。この回の勝敗は白組の勝利となっており、結果発表も含めて、大晦日の恒例行事として多くの家庭で話題になっていたことがうかがえます。
第23回紅白歌合戦が開催された1972年の出来事
1972年の日本は、社会や国際関係においても大きな動きがあった年でした。沖縄の本土復帰が実現し、日本にとっては戦後の歴史の一つの区切りとなる出来事として、多くの人々の記憶に残っています。また、経済成長の中で人々の暮らしは豊かになる一方、環境問題や社会問題への関心も高まり始めていました。音楽の世界では、フォークソングやニューミュージックが若い世代を中心に支持を広げ、自己表現としての音楽がより重視されるようになっていきます。こうした時代背景の中で放送された紅白歌合戦は、変化する社会と人々の心情を映し出す番組として、重要な役割を担っていました。
第23回紅白歌合戦の出場アーティスト一覧
第23回紅白歌合戦には、昭和歌謡を支えてきたベテラン歌手と、新しい時代の音楽を担う人気歌手が多数出演しました。紅組では美空ひばり、島倉千代子、いしだあゆみ、由紀さおり、ペギー葉山などが名を連ね、確かな歌唱力と表現力で番組を支えています。長年親しまれてきた歌声は、紅白歌合戦ならではの安心感と格式を感じさせるものでした。
一方、白組には森進一、五木ひろし、三橋美智也、春日八郎、フランク永井などが出演し、それぞれが力強さや哀愁を感じさせる歌唱で会場と視聴者を魅了しました。特に五木ひろしは、この頃から紅白歌合戦の中心的存在として注目を集めるようになり、昭和後期の紅白を語るうえで欠かせない存在となっていきます。出演者の顔ぶれからは、紅白歌合戦が確実に世代交代の流れの中に入っていたことが読み取れます。
第23回NHK紅白歌合戦(1972年) 出場歌手・曲目一覧
※第23回は1972年(昭和47年)12月31日に放送されました。
| 紅組歌手(優勝) | 紅組曲目 | 白組歌手 | 白組曲目 |
|---|---|---|---|
| 天地 真理(初) | ひとりじゃないの | 森 進一 | 放浪船 |
| 和田 アキ子 | 孤独 | フォーリーブス | 夏のふれあい |
| 朱里 エイコ(初) | 北国行きで | 堺 正章 | 運がよければいいことあるさ |
| 渚 ゆう子 | 風の日のバラード | にしきの あきら | 嵐の夜 |
| 奥村 チヨ | 終着駅 | 鶴岡雅義と東京ロマンチカ | くちづけ |
| 由紀 さおり | 故郷 | 石橋 正次(初) | 夜明けの停車場 |
| 佐良 直美 | オー・シャンゼリーゼ | 村田 英雄 | ここで一番 |
| 山本 リンダ | どうにもとまらない | 尾崎 紀世彦 | ゴッドファーザー〜愛のテーマ〜 |
| いしだ あゆみ | 生まれかわれるものならば | 青い三角定規(初) | 太陽がくれた季節 |
| 南 沙織 | 純潔 | 野口 五郎(初) | めぐり逢う青春 |
| ザ・ピーナッツ | さよならは突然に | ビリー・バンバン(初) | さよならをするために |
| 本田 路津子 | 耳をすましてごらん | 西郷 輝彦 | 愛したいなら今 |
| 森山 良子 | 美しい星 | 菅原 洋一 | 知りたくないの |
| 藤 圭子 | 京都から博多まで | 美川 憲一 | 銀座・おんな・雨 |
| 欧陽 菲菲 | 恋の追跡(ラブ・チェイス) | 上條 恒彦(初) | 出発(たびだち)の歌 |
| 小柳 ルミ子 | 瀬戸の花嫁 | 三波 春夫 | あゝ松の廊下 |
| 平田 隆夫とセルスターズ(初) | ハチのムサシは死んだのさ | 水原 弘 | お嫁に行くんだね |
| 島倉 千代子 | すみだ川 | フランク 永井 | 君恋し |
| 都 はるみ | おんなの海峡 | 橋 幸夫 | 子連れ狼 |
| ちあき なおみ | 喝采 | 沢田 研二(初) | 許されない愛 |
| 青江 三奈 | 日本列島・みなと町 | 五木 ひろし | 待っている女 |
| 水前寺 清子 | 昭和放浪記 | 布施 明 | マイ・ウェイ |
| 美空 ひばり | ある女の詩 | 北島 三郎 | 冬の宿 |
特別企画・エピソード
| 出来事 | 内容 |
|---|---|
| 美空ひばり トリ | この年も紅組トリを務め、10年連続でトリ(大トリ含む)という記録を残しました。 |
| 初出場歌手 | 天地 真理、朱里 エイコ、野口 五郎、沢田 研二(ソロとして)など、70年代を象徴するスターが多数初出場しました。 |
まとめ
第23回NHK紅白歌合戦は1972年の大晦日に放送され、日本社会が新たな段階へと進んでいく時代の空気を色濃く反映した大会となりました。社会や音楽の価値観が変化する中でも、紅白歌合戦は世代を超えて共有できる国民的番組として、その役割を果たし続けていました。美空ひばりや森進一、五木ひろしといった時代を代表する歌手たちが集結したこの第23回は、紅白歌合戦が次の時代へ向かって進化していく過程を感じさせる、重要な一回と言えるでしょう。