1981年12月31日に放送された第32回NHK紅白歌合戦は、昭和後期の日本社会と音楽シーンが、よりはっきりと「多様化」の段階に入ったことを感じさせる回です。1980年代に入り、生活様式や価値観は一層個人化が進み、音楽も世代や嗜好によって選ばれる時代になっていました。それでもなお、大晦日の夜に紅白歌合戦を観ながら一年を締めくくるという習慣は変わらず続き、紅白は「世代や流行を越えて共有できる番組」として、特別な役割を果たし続けていました。第32回は、そんな時代の中で行われた、昭和紅白の安定感と広がりを感じさせる大会です。
目次
第32回紅白歌合戦の概要
第32回NHK紅白歌合戦は1981年12月31日の大晦日に開催され、テレビとラジオの同時放送で全国に中継されました。番組構成はこれまでの紅白の流れを踏襲し、紅組・白組に分かれた出場歌手が順番に登場して、その年を代表する楽曲を披露する形式が採られています。30回を超えた紅白歌合戦は、進行や演出において非常に高い完成度を誇っており、長時間の生放送でありながら、年末の時間帯に自然と溶け込む安定した番組となっていました。この回の勝敗は白組の勝利となっており、結果発表も含めて、大晦日の恒例行事として多くの家庭で楽しまれていました。
第32回紅白歌合戦が開催された1981年の出来事
1981年の日本は、経済や社会が安定した中で、人々の関心がより「自分らしさ」や「楽しみ方の多様性」へと向かっていた時代です。大量消費の時代から一歩進み、音楽やファッション、ライフスタイルにおいても個性が重視されるようになっていました。音楽シーンでは、ニューミュージックやポップスが幅広い支持を集める一方で、演歌や歌謡曲も根強い人気を保ち、世代ごとに異なる音楽文化が共存していました。こうした背景の中で放送された紅白歌合戦は、異なる世代や価値観をつなぐ「共通の場」として、重要な役割を果たしていたと言えるでしょう。
第32回紅白歌合戦の出場アーティスト一覧
第32回NHK紅白歌合戦(1981年) 出場歌手・曲目一覧
※第32回は1981年(昭和56年)12月31日に放送されました。
| 紅組歌手 | 紅組曲目 | 白組歌手(優勝) | 白組曲目 |
|---|---|---|---|
| 河合 奈保子(初) | スマイル・フォー・ミー | 近藤 真彦(初) | ギンギラギンにさりげなく |
| 石川 ひとみ(初) | まちぶせ | 田原 俊彦 | 悲しみ2(TOO)ヤング |
| 松村 和子(初) | 帰ってこいよ | 山本 譲二(初) | みちのくひとり旅 |
| 高田 みづえ | 涙のジルバ | 郷 ひろみ | お嫁サンバ |
| 松田 聖子 | 夏の扉 | 千 昌夫 | 望郷酒場 |
| 水前寺 清子 | 有明けの海 | 三波 春夫 | 雪の渡り鳥 |
| 川中 美幸(初) | ふたり酒 | 西城 秀樹 | ジプシー |
| 小柳 ルミ子 | たそがれラブコール | 菅原 洋一 | 慕情 |
| 島倉 千代子 | 鳳仙花 | フランク 永井 | おまえに |
| 牧村 三枝子(初) | みちづれ | 細川 たかし | いつかどこかで |
| 五輪 真弓 | リバイバル | 寺尾 聰(初) | ルビーの指環 |
| 榊原 郁恵 | シャイニング・ラブ | 西田 敏行(初) | もしもピアノが弾けたなら |
| 桜田 淳子 | This is a "Boogie" | 加山 雄三 | 夜空を仰いで~お嫁においで~君といつまでも |
| ロス・インディオス&シルビア | うそよ今夜も | 沢田 研二 | ス・ト・リ・ッ・パ・ー |
| 青江 三奈 | あなたにゆられて | 村田 英雄 | なみだ坂 |
| 研 ナオコ | ボサノバ | 竜 鉄也(初) | 奥飛騨慕情 |
| 石川 さゆり | なみだの宿 | 野口 五郎 | 裏切り小僧 |
| 岩崎 宏美 | すみれ色の涙 | 新沼 謙治 | 待たせたね |
| 小林 幸子 | 迷い鳥 | 内山田 洋とクール・ファイブ | 女・こぬか雨 |
| 都 はるみ | 浮草ぐらし | 森 進一 | 命あたえて |
| 八代 亜紀 | うしろ影 | 五木 ひろし | 人生かくれんぼ |
| 森 昌子 | 哀しみ本線日本海 | 北島 三郎 | 風雪ながれ旅 |
特別企画・企画コーナー
| 企画名 | 内容 |
|---|---|
| 日本の四季メドレー | テレビ放送開始30周年を記念したコーナー。出場歌手が童謡・唱歌をメドレーで披露しました。 |
| 北島 三郎「風雪ながれ旅」 | 大量の紙吹雪が舞う演出はこの回から始まり、以降の恒例となりました。 |
まとめ
第32回NHK紅白歌合戦は1981年の大晦日に放送され、昭和後期の日本社会と音楽文化の広がりを映し出す大会となりました。音楽の楽しみ方や価値観が多様化する中でも、紅白歌合戦は世代を超えて共有できる年末の象徴として、多くの家庭に受け入れられていました。美空ひばりや森進一、五木ひろしをはじめとする時代を代表する歌手たちが集結したこの第32回は、紅白歌合戦が「変わらない安心感」と「時代への適応」を両立させてきたことを実感させる一回と言えるでしょう。