1986年12月31日に放送された第37回NHK紅白歌合戦は、昭和の終盤に差しかかり、日本の音楽シーンと大衆文化が大きな転換点を迎えつつあった時代を象徴する回です。1980年代半ばを過ぎ、テレビや音楽を取り巻く環境は急速に変化し、流行の移り変わりも以前より速くなっていました。その一方で、大晦日の夜に紅白歌合戦を観ながら一年を締めくくるという文化は変わらず受け継がれ、紅白は「変化の激しい時代における変わらない存在」として、多くの家庭に安心感を与えていました。第37回は、そうした時代の中で行われた、昭和紅白の集大成へと近づく一回でもあります。
目次
第37回紅白歌合戦の概要
第37回NHK紅白歌合戦は1986年12月31日の大晦日に開催され、テレビとラジオの同時放送で全国に中継されました。番組の基本構成はこれまでの紅白歌合戦と同様で、紅組・白組に分かれた出場歌手が順番に登場し、その年を代表する楽曲を披露していく形式が採られています。30回を超えてなお、進行や演出は非常に安定しており、長時間の生放送でありながら、年末の空気に自然と溶け込む番組づくりがなされていました。この回の勝敗は白組の勝利となっており、結果発表も含めて、大晦日の恒例行事として多くの家庭で楽しまれていた様子がうかがえます。
第37回紅白歌合戦が開催された1986年の出来事
1986年の日本は、社会や経済が次の時代へ向かって動き出していた年でした。人々の生活は安定し、余暇や娯楽に対する関心はさらに高まり、音楽やテレビ番組の影響力も一層大きくなっていきます。音楽シーンでは、ポップスやアイドルが若い世代を中心に強い存在感を放つ一方で、演歌や歌謡曲も変わらぬ支持を集めていました。世代ごとに好まれる音楽は異なりながらも、それらが同時に存在する状況は、まさにこの時代ならではの特徴と言えるでしょう。そうした背景の中で放送された紅白歌合戦は、異なる世代や価値観を一つの時間に集める場として、大きな意味を持っていました。
第37回紅白歌合戦の出場アーティスト一覧
第37回NHK紅白歌合戦(1986年) 出場歌手・曲目一覧
※第37回は1986年(昭和61年)12月31日に放送されました。
| 紅組歌手 | 紅組曲目 | 白組歌手(優勝) | 白組曲目 |
|---|---|---|---|
| 荻野目 洋子(初) | ダンシング・ヒーロー | 少年隊(初) | 仮面舞踏会 |
| 大月 みやこ(初) | 女の港 | 新沼 謙治 | 情け川 |
| 小泉 今日子 | 夜明けのMEW | 三波 春夫 | あゝ北前船 |
| 斉藤 由貴(初) | 悲しみよこんにちは | 吉 幾三(初) | 雪國 |
| 小柳 ルミ子 | 乱 | 田原 俊彦 | あッ |
| 中森 明菜 | DESIRE | 沢田 研二 | 女神 |
| テレサ・テン | 時の流れに身をまかせ | 山川 豊(初) | ときめきワルツ |
| 研 ナオコ | Tokyo見返り美人 | シブがき隊 | トラ!トラ!トラ! |
| 五輪 真弓 | 時の流れに〜鳥になれ〜 | 小林 旭 | 熱き心に |
| 河合 奈保子 | ハーフムーン・セレナーデ | 近藤 真彦 | 青春 |
| 川中 美幸 | ふたりの絆 | 大川 栄策 | 雨の港 |
| 和田 アキ子 | もう一度ふたりで歌いたい | 菅原 洋一 | 小雨降る径(みち) |
| 松田 聖子 | 瑠璃(るり)色の地球 | 加山 雄三 | 今は別れの時 フェアウェル |
| 岩崎 宏美 | 好きにならずにいられない | 角川 博 | 波止場シャンソン |
| 水前寺 清子 | 男三百六十度 | チェッカーズ | Song for U.S.A. |
| 松原 のぶえ | 演歌みち | 千 昌夫 | 望郷旅鴉 |
| 八代 亜紀 | 港町純情 | 細川 たかし | さだめ川 |
| 島倉 千代子 | くちべに挽歌 | 村田 英雄 | 男吉良常 |
| 小林 幸子 | 別離(わかれ) | 五木 ひろし | 浪花盃 |
| 石川 さゆり | 天城越え | 森 進一 | ゆうすげの恋 |
特別企画・エピソード
| 出来事 | 内容 |
|---|---|
| 加山 雄三「仮面ライダー」事件 | 白組司会の加山 雄三が、トップバッターの少年隊の曲「仮面舞踏会」を紹介する際に、誤って「仮面ライダー」と言ってしまった伝説的なハプニング。 |
| 斉藤 由貴の司会 | この年の連続テレビ小説『はね駒』のヒロインを務めた斉藤 由貴が紅組司会を担当し、歌手としても初出場しました。 |
| 石川 さゆり 初トリ | 「天城越え」で初めて紅組のトリを務めました。 |
まとめ
第37回NHK紅白歌合戦は1986年の大晦日に放送され、昭和の終盤における日本社会と音楽文化の姿を色濃く映し出した大会となりました。音楽のジャンルや楽しみ方が大きく広がる中でも、紅白歌合戦は世代を超えて共有できる年末の象徴として、多くの家庭に寄り添い続けていました。美空ひばりや森進一、五木ひろしをはじめとする時代を代表する歌手たちが集結したこの第37回は、紅白歌合戦が「変わらない安心感」と「時代の変化」を同時に内包してきたことを、改めて実感させる一回と言えるでしょう。